福井での土曜日と『スタイルズ荘の怪事件』の話
1
この前の土日に、福井にある妻の実家へ家族で行った。日曜日に行なわれる妻の祖父の法事に参列するためと、妻の親戚たちに生後8か月である息子のハルタの顔見せをするためである。
僕たちは関東に住んでいて、福井まではなかなかの距離があるため、妻の実家は気軽に行ける場所ではない。僕は福井に行くのは今回で3回目である。
ハルタにとっては福井に行くのは初めてのことであり、こんなに長い距離を移動するのも初めてだし、お泊りも初めてである。出発の前、僕はハルタを無事に連れて行けるか、そして無事に連れて帰ってこれるか、正直ものすごーく不安であった。
2
土曜日の朝に新幹線の切符を買いに行ったが、指定席はすでに満席であった。(なぜ事前に指定席の切符を買っておかなかったのかについては、長くなるので割愛)
新幹線に乗車してみると、自由席はぽつぽつと空いている。ただ、家族で横に座れる席はなく、ハルタを抱いている妻が座った席の、一列前の空いている席に僕は座った。
僕は最近熱心に読んでいる小説をコートのポケットから出し、続きのページを開いた。
ミステリ好きの僕の猫舎さんがお薦めしてくれた、『スタイルズ荘の怪事件』である。
- 作者: アガサクリスティー,Agatha Christie,矢沢聖子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/10/01
- メディア: 文庫
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ミステリ初心者の僕に、こんな素敵な小説を紹介していただきありがとうございます。福井滞在中に読み終わりましたが、僕の猫舎さんがおっしゃるように構成がとても美しく、トリックの見事さに舌を巻きました。
新幹線で一つの章を読み終わり、後ろに座る妻を振り返って見ると、妻は隣に座る知らない老夫婦と談笑していた。老夫婦の会話を笑顔で聞いてるハルタに夫人が気づいたのが会話のきっかけだったらしい。
3
以下は『スタイルズ荘の怪事件』で、犯人を追い詰める手掛かりに気付いたときの私立探偵エルキュール・ポアロの様子。
「ああ、断じて違いますよ!」ポアロははっきり言った。「今回はどえらい思いつきです! あっと驚くような! そして、きみですよーわが友ーそのヒントをくれたのは!」
だしぬけに両腕でわたしを抱き締めると、ポアロはわたしの両頬に熱烈なキスをした。そして、わたしがまだ驚きから立ち直らないうちに、あたふたと部屋を出ていった。
ちょうどそのとき、メアリ・カヴェンディッシュが入ってきた。
「どうなさったんですの、ムッシュー・ポアロは? 叫びながらわたしのそばを駆け抜けていらしたけれど、(中略)わたしがなにも言わないうちに、外に飛び出していかれました」
私は窓に駆け寄った。確かに、帽子もかぶらず、両手を振りまわしながら、街路をあたふた走っていくポアロの姿があった。
小説の中の人物とは思えないほど、人間くさく、魅力的なお人です。
4
福井は寒かった。曇っているし、吹く風も冷たい。
妻の実家で一休みすると、僕は「ちょっと外を歩かない?」と妻を散歩に誘った。外が寒いので妻は少々渋ったが、「いいよ」と返事をくれたので、ハルタを義母に預け、いっぱい着込んで二人で外に出た。
妻の実家は海沿いにある。霜秋、黄昏時、日本海。
僕たちは、荒れている海を眺めながら歩いた。
「こんな景色続けて見てたら、心が病みそうだね」と僕は言った。
「……子どもときは、こんなところから早く出ていきたいってよく思ってた」と妻。
遠くに東尋坊が見えた。
5
初めて僕が福井に行ったのは昨年の夏である。そのとき、妻と二人で東尋坊に足を運んだ。断崖絶壁!
快晴で、とにかく暑かった。
あの頃、ポケモンGOがかなり流行っていて、東尋坊周辺では、自宅周辺では出現しないような珍しいポケモンが捕獲できた。
海に接する岩壁の上には「スマホゲームをしないでください」という立札があった。
当たり前だ。ポケモンGOに夢中になっているうちに、崖下の海にGOしかねない。
6
刑事ドラマで犯人が追い詰められて自白する場所は、なぜいつも断崖絶壁なのか?
(日曜日に続く)