久しぶりの歯医者と『あんぱんまんとばいきんまん』の話
1
ここ数ヶ月、奥歯にかすかな痛みがあったのだが、仕事も忙しく、歯医者に行くのが面倒くさいので放置していた。
横着の結果が現れたのは、先日の夜である。自宅での食事中、にわかに奥歯の痛みが激しくなった。
「いたいよお~」
耐えがたい痛さである。しかし、このとき午後十時。近所の歯医者はどこもやっていない。
妻が「バファリン飲んどけば。私、歯が痛いとき、痛み止めとしてよく飲んでたよ」と言った。へえ、バファリン効くの? まあとりあえずこの痛みがひくなら何でもいいや。
妻はがさごそと棚から薬を取り出し、僕に手渡した。
……パッケージには「バファリン・ルナ」と書いてある。
「これ生理痛用の薬じゃん!」
「これしか家にはないよ。普通のバファリンとたいして変わりはないでしょ。痛みに負けルナ!」と笑顔の妻。
あ、確かに効用のところに「歯痛」と書いてある。
……薬を服用し、しばらくして痛みは落ち着いた。やるな、バファリン・ルナ。
2
そして、翌日の朝、また激しい痛みがやってきた。絶対虫歯だこれ。
僕はこれまでの食生活を猛烈に反省した。僕と妻は甘いものが好きで、よく夜遅くにお菓子などを食べる。
実家から送られてきたリンゴで、妻が深夜にリンゴパイを焼いてくれたこともあった。妻は甘い香りのする熱々のリンゴパイをテーブルに置いて、「こんな時間に食べて、すぐに寝たら、明日吐き気がするよ」と僕に言った。
「自分で作っておいて、おぬしは何を言っておるのだ。今これを食べて、明日気持ち悪くなったっとしても、拙者は一切後悔せぬ」と僕は決め顔で言い、自分の分のアップルパイを平らげた。次の日、一日中気持ちが悪く、めちゃくちゃ後悔した。
ああいう食生活が、虫歯の発達を促したのだ。もう夜に糖分は当分摂取しないぞ……!と心に固く誓った。
3
朝、会社に電話をし、午前中のみ有給を取得して、会社の近くの歯医者に行った。
結構混んでいる。僕は待合室の本棚を眺めた。病院に行っても、ラーメン屋に行っても、床屋に行っても、待っているときは自分の本ではなく、そこに置いてある本や新聞を読むのが自分ルールである。
その歯医者には面白そうな本がなかったので、日経を広げて読んだ。
子供のころに通っていた歯医者には、やなせたかしの絵本『あんぱんまんとばいきんまん』が置いてあったのを覚えている。
あんぱんまんとばいきんまん (キンダーおはなしえほん傑作選 43)
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元気がなく、パン作りを休むジャムおじさんに、あんぱんまんは心配して声をかける。
「おじさん あんこが くさりますよ。」
そうだ、『あんぱんまんとばいきんまん』を、クリスマス、息子にプレゼントしてあげよう。
4
久しぶりの歯医者である。10年ぶりくらいじゃないかなあ。
子供のころに診てもらっていた歯医者は昔ながらの歯医者で、麻酔を簡単にしてくれなかった。
中学生のときだったと思うけど、そこの歯医者で虫歯を削るとき、歯医者さんに「今から削るけど、痛かったら手を上げてね。麻酔打つから」と言われた。
僕は「根性なしに思われたくない」という妙な意地があり、治療中、激しい痛みがありながらも手を挙げず、最後まで耐え抜いた。精神力の強さが僕の長所です。
そんなことを思い出していると、受付の女性に名前を呼ばれた。いよいよ診てもらえる。
僕の歯のレントゲン写真を眺めながら歯医者さんは言った。
「あー、立派な穴が開いてるね、痛いでしょ。こうなる前に歯医者に来なきゃ。もう神経まで穴が達してるから、神経抜かなきゃならんね。麻酔打っていいよね?」
「はい、お願いします!」と僕は即答した。
5
ガガガガガガガッガガガガッガッガガ……
麻酔ってすばらしいと虫歯の治療中に思った。全然痛くない。
痛くない、痛くない、「ブチっ」痛い!
「君、君」と歯医者さんは、治療台に寝そべっている涙目の僕に声をかけた。
「後学のために見ておきなさい。これが歯の神経だよ」
歯医者さんが持っている針の先に、短く細い糸みたいのがついていた。きもちわるっ!自分のだけど。
「これを今引き抜いたんだな」と歯医者さん。
「にゃるほど」
6
神経を取り除いたおかげで、歯の痛みはさっぱりなくなりました。歯が痛くないって素晴らしい!
これでまた甘いものをたくさん食べられるぞ!