ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ(平成元年生まれ)。読書ブログを目指している雑記ブログ。息子ハルタとじゃれ合うことが趣味。

血の涙を流した「竹取の翁」と、病気と向き合い始めた父の話

 

竹取物語』の勉強を進める中、資料として高畑勲監督の『かぐや姫の物語』を見返した。2013年の日本映画の中では個人的ベストである。

 

かぐや姫の物語 [DVD]

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映画の冒頭、『竹取物語』の序文がしっとりとした声で流れ、映画の中にすっと気持ちが入っていく。

 

今は昔、竹取の翁といふものありけり。

野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。

名をば、さぬきの造となむいひける。

 

 

かぐや姫の物語』を映画館に見に行ったのは、大学を卒業してフリーターをやっているときだった。そのとき、翁に対して「ほんと俗で、ろくでもない奴だな」という印象を抱いた。彼はかぐや姫の気持ちを想像することができず、少しでも位の高い貴族と縁を結ぶことが家の幸せであり、姫の思い幸せであると信じ込んでいる。

 

しかし、今回見返してみて翁に対する印象が変わった。翁の言動の端々に、かぐや姫に対する愛情が感じられた。本物の父娘ではないが、その愛の強さは本物に親子のそれと何ら変わりはない。 

 

よちよち歩きをし始めたかぐや姫を、翁が自分のほうへ歩かせようと「ひーめっ!」と大きな声で呼ぶシーンが序盤にある。 呼び続ける翁は、姫を愛おしく思うあまり泣き出してしまい、姫の方へ駆け出す。

 

初めてこのシーンを見たときは崩れた翁の表情が可笑しく笑ってしまったが、今回は目頭が熱くなった。姫に駆け寄った翁は彼女を抱き上げ、頰ずりをする。なんか気持ちめっちゃわかる。

 

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この5年間での感受性の変化は、やっぱり自分に子供ができたことが大きい。「子供ができても、以前と自分は何も変わらない」とかっこつけて言いたいところであるが、子供ができる以前と以後で自分という人間はかなり変わってしまった。

 

 

 

父は初期のうつ病と診断され、仕事を1ヶ月休むこととなった。

 

「だけど、抗うつ剤を飲むことを父さんは拒否している」と母は電話口で言った。父は「そんなもの飲んでも治る保証はない」なぞと言っているらしい。

 

その連絡を受けた僕は、仕事を早めに切り上げ実家に直行した。実家に着くとすぐに父と母と弟をテーブルに座らせた。

 

両親ともに表情は暗い。父はこの前会ったときより更にやつれて見える。

 

僕はわかりやく順序立てて父に話すことを努めたが、もしかすると感情が高ぶっていたので支離滅裂な話になっていたかもしれない。要約すると、「薬を飲まなければ一層悪化するかもしれない。お医者さんと母さんの言うことをよく聞いてほしい。家族みんなが父さんに元気になってほしいと思ってる」と伝えた。

 

僕が話終えると、お前の言ってることはよく分かったというようなことを父は言い、「悪いな」と口にして涙を流した。そして、僕の手を握った。衝撃を受けた。あの父が……。

 

母もその光景に動揺したらしく、涙をボロボロと流した。その状況に、子供の頃のように自分も泣き出したい気持ちになった。しかし、僕がそこで泣いたら、そのまま家族が悲劇に転げ落ちていくような強い予感がし、感情に流されずに踏みとどまった。自分がしゃんとしなきゃならない。

 

時計は21時をまわっていた。僕は「ハルタを風呂に入れなきゃいけないから」と言い、もう一度父に薬を飲むことを念押しし実家を後にした。

 

 

 

帰宅すると、一歳の息子ハルタはもう寝ていた。妻は編み物をしていた。

 

ハルタの安らかな寝顔を見ると、様々な疲れがなくなっていくような心持ちになる。どんなことがあってもこの子を手放したくはない。

 

竹取物語 (岩波文庫)

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かぐや姫が月に帰ることを知り、嘆き悲しむ翁と嫗に同情せずにはいられない。

 

8月15日の夜、天人がかぐや姫を迎えにやってくる。心乱れ泣き伏す翁と嫗にかぐや姫は心を痛め、手紙を書き置いた。

 

過ぎ別れぬること、返す返す本意なくこそおぼえはべれ。脱ぎ置く衣を形見と見たまへ。

月のいでたらむ夜は、見おこせたまへ。見捨てたてまつりてまかる、空よりも落ちぬべき心地する。

 

かぐや姫はついに天へと昇ってしまい、翁と嫗は血の涙を流して悲しみ、病床に伏せってしまう。

 

 

 

秋が深まり、だんだんと肌寒くなってきた。