アフター5のGUと『平成くん、さようなら』の話
1
僕にとって30回目の冬が到来した。
週末、妻の実家がある福井に行くことになったのだが、福井は関東に比べ、もうかなり寒いらしい。暖かい格好をしていかないと。
クローゼットを開けると、防寒着は4年前くらいにイオンで購入したコート1着しかない。僕はファッションに昔から無頓着である。別にこのコートを着て行ってもいいのであるが、1歳9ヶ月になった息子ハルタが最近いろんな服を着れるようになり、妙にファッショナブルな格好をしていて(初孫とあって、祖父、祖母からたくさん服を買ってもらえる)、それを見ていると父親である自身の普段着を急にみすぼらしく感じるようになってきたのである。
冬服を一新しようと思い立ち、久しぶりに定時に仕事をあがり、家に帰った。洗いものをしていた妻に「一緒に行くかい?」と声をかけた。「どこに?」と怪訝な表情で妻。
2
GUの中をハルタは歩き回った。自宅から車で10分のところにあるGUは、客が少なく、閑散としている。僕が服を選んでいる間、歩き回るハルタに妻が付き添った。
チノパンを試着するために試着室でちょうど自分のズボンを脱いでいるときに、ハルタがカーテンを少し開き試着室の中に入ってきた。「おーい、入ってくるなや」とハルタに言ったが、息子はけらけらと笑っていた。
GUはリーズナブルな上に、ファッション性が高い(ように見える)。あまり服にはこだわりがなく、お金もかけたくないが、人からはファッションを「変」とは思われたくない自分にとっては最適のお店である。ダウンジャケット、チノパン、ベルト、セーター、さらに息子のファッションを参考にしてチェックのアンクルパンツを購入した。これで1万円もかからないのである。ファストファッションって素晴らしい。
ファストファッションも平成の象徴ですね。ユニクロやGUなどの台頭はファッションの民主化、豊かな社会の証であるとラジオで言っていた。
3
夜は、買ったばかりの『平成くん、さようなら』をごろ寝しながら読んだ。
今売れっ子の社会学者、古市憲寿の書いた初の小説である。古市君が結構好きな僕は本書を発売してすぐに購入した。
本当は作者と作品は切り離して読みたいのだけれど、個性の強い作者と、中心人物のである平成くんの人間性が重なって、作者の顔が頭の中にちらついた(彼のメディア露出が多いため、しょうがないのであるが)。それが原因で、読んでいて、作者のほのかなナルシシズムを勝手に感じずにはいられなかった。
ただ、その点を除けば、平成末期にふさわしい(?)、心打たれる切ないラブストーリーである。無機質なざらつきがありながらも、その奥に温かみがあり、身近な愛しい人に自然と優しくなれるような気持ちになる深みのある小説だった。
いちばん印象に残った場面は、平成の終わりに死ぬことを決めている平成くんが、家族との思い出の地である熱海に彼女と行き、亡くなった母の遺骨を撒く場面である。
「何となくずっと捨てられなかったんだ。区役所が火葬まではしてくれたんだけど、うちにはお墓がなかったから、親戚に言われて僕が持っていた。でもこのまま僕が死んだら、お母さんって、この世界の誰からも忘れられちゃう。ねえ愛ちゃん、それって悲しいことなんでしょ」
なんとなく、小説のキーワードは「思い出」である気がした。過去の出来事をさまざまなツールでどんどんと記録することができるようになった昨今だが、もっと自分の心と向き合い、その中にある温かな記憶を大切にしていきたいと思った。
4
ハルタは、僕の真似をして、ごろ寝読書をするようになった。以下の写真では、『ちびまる子ちゃん』を読んでいる。
そういえば、twitterを始めました。
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