ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ。読書ブログを目指している雑記ブログ。2人の息子とじゃれ合うことが趣味。

五代雄介という希望ー『仮面ライダークウガ』を見て

 

年末年始に『仮面ライダークウガ』を全話見た。視聴は10年ぶりくらいではないかな。

 

仮面ライダークウガ Blu‐ray BOX 1 [Blu-ray]

仮面ライダークウガ Blu‐ray BOX 1 [Blu-ray]

 

 

仮面ライダークウガ Blu‐ray BOX 2 [Blu-ray]仮面ライダークウガ Blu‐ray BOX 2 [Blu-ray]

 

 

仮面ライダークウガ Blu-ray BOX 3 <完>仮面ライダークウガ Blu-ray BOX 3 <完>

 

 

やはり傑作である。リアルタイムの放送から20年経った今でもその魅力は全く衰えることなく、むしろ見れば見るほど新しい魅力に気づき、物語の密度の高さに舌を巻かずにはいられない。

 

仮面ライダークウガ』が傑作である理由は、

・リアリティの高い演出

・緻密な脚本

・長短あるそれぞれのフォームチェンジを駆使した戦略の面白さ

・作りこまれた登場人物一人ひとりの人間像

クウガの敵であるグロンギの恐ろしさ

……などなどあるが、この記事ではクウガに変身する主人公、「五代雄介」(オダギリジョー)の強い人間的魅力に迫りたい。

 

 

 

五代雄介は、穏やかで優しい性格である。笑顔を大切にし、争いを好まず、強い意志を内に秘めている。そんな気持ちのいい人間性は物語の多くの場面で垣間見れる。

 

EPISODE41「抑制」での雄介の言葉が胸に刺さる。女優を夢見る朝日奈奈々は、オーディションのライバルからひどい嫌味を言われ、そのライバルを殺してやりたいという思いに駆られる。そんな彼女に雄介は「暴力では何も問題は解決しない」ということを伝えるが、彼女から「五代さんの言うことは綺麗事ばかり」と言われてしまう。それに彼はこう答える。

 

f:id:gorone89:20190109072527j:plain

 

「そうだよ!……でも!だからこそ現実にしたいじゃない!本当は綺麗事がいいんだもん!これ(暴力)でしかやり取りできないなんて悲しすぎるから!」

 

「本当は綺麗事がいいんだもん」という雄介の言葉は重い。「人々の笑顔を守る」という理由でグロンギと戦い続ける中、人間を暴力で殺害するグロンギを、クウガとして同じ暴力で殺害するというジレンマを彼は引き受けている。穏やかな彼だが、憎しみに支配され拳を振るってしまい、自己嫌悪に陥ることもあった。生きるということは、綺麗事では済まされないことは、彼が最も強く自覚しているだろう。

 

しかし、彼はそれでも暴力を許容できないし、暴力に訴えなくても、人間同士であれば対話で分かり合えると固く信じている。彼は争いのない綺麗な世界の実現は難しいと知りながらも、そのような世界の実現を決して諦めてはいないのである。

 

 

3

 

重い荷物を

まくらにしたら

深呼吸…青空になる

目をあけても つぶっても

同じ景色が過ぎて行くけど

今、見てなくちゃ…気づけない

君を連れて行こう

悲しみのない未来まで

君がくれた笑顔だけ

ポケットにしまって

僕は…青空になる

 

上は『クウガ』のED曲「青空になる」の歌詞。たまらなくいい歌である。この物語における「青空」は「希望」の象徴だ。

 

雄介は最終決戦の前、大雨に何か不吉な予感を感じている保育園の園児たちに、このように話す。

 

「この雨だって絶対止むよ。そしたら青空になる。今だってこの雨を降らせている雲の向こうには、どこまでも青空が広がってるんだ」

 

雄介こそが「青空」(=希望)である。彼の他者に対する思いやりの深さや、「みんなの笑顔を守る」ために自分の体を犠牲にしながら戦う姿を知って、周囲の人間は彼を信頼し、彼に希望を託す。

 

雄介は先ほど述べたように、争いを好まない人間である。人間をゲームとして殺害するグロンギを殺害することにも嫌悪感に近いものを抱いている。あまりに優しすぎる。

 

しかし、その優しさが彼のパワーの源でもあった。大好きな人たちを守りたいという気持ちが、彼、クウガをどんどんと強くしていく。最終決戦ではついに、その強い意志によって、アルティメットフォームに超変身する。

 

f:id:gorone89:20190109072607j:plain

 

グロンギの王である、未確認生命体第0号(ン・ダグバ・ゼバ)との死闘。大雪の中、クウガと0号は激しく殴り合い、お互い吐血する。

 

戦いの最中、仮面の下の雄介の表情が確認できるのであるが、なんと彼は泣いている。彼は殴られる痛みに泣いているのではもちろんない。相手を痛めつける苦痛に泣いているのだ。

f:id:gorone89:20190109110050j:plain

 

これまでの戦いの中でも、彼は幾度もその仮面の下で涙を流してきたのかもしれない。雄介の場合、その仮面は、「他者に自分の思い、感情を悟られない」という本来の仮面の機能を果たしているのだ。「仮面ライダー」であることの宿命の重さ、孤独、そして苦悩が、この『クウガ』という作品を通してひしひしと伝わってくる。

 

争いを嫌う、優しすぎる雄介はその宿命に非常に苦しんでいる。大人になって、彼の強さがより理解できた。宿命に耐え、戦いを続けながらも、笑顔を忘れず、周囲の人を励ます彼の姿を涙なしに見ることはできなかった。僕は雄介のような人間になれるであろうか……?

 

 

 

「誰かの笑顔を守る」ため、体に重い負担をかけるパワーアップを重ね、心をけずる戦いに身を投じる、五代雄介。彼の自己犠牲の精神には頭が上がらない。いや、彼は他者のために自己を犠牲にしているという意識すらないであろう。

 

彼は他者の喜びを、そのまま自分の喜びとしている。これは簡単なように見えて、なかなかできることではない。他者のためにした行動を、感謝されなかったり、認めてもらえなかったりして、「~してあげたのに」と憤る人は少なくない。自身の承認欲求を満たすため、他者からの感謝や称賛や見返りを常に期待して行動するのは、たとえ結果的に他者のためになったとしても、それはすべて偽善にすぎないと雄介の人とのかかわり方を見ると思えてくる。

 

どんな時代、どんなコミュニティにも、五代雄介のような人間が必要であり、求められる。他者の喜びをそのまま自分の喜びとできる人間が。生きるということは綺麗事ではないと知りながらも、理想を語り、その実現に努力できる人間が。絶望を笑顔で希望に変えられる人間が。

 

それをできる人間こそが本物のヒーローであるし、だれもがそんなヒーローになれる可能性と資格を持っているはずである。

 

f:id:gorone89:20190109110138j:plain

 

 

何かに絶望したとき、生きるのってしんどいなと思ったとき、自分の信念が揺らいだとき、自分自身の弱さに負けそうになったとき、是非『仮面ライダークウガ』を見てください。本物のヒーローがここにいます。

 

 

ゴロネ (@gorone89) | Twitter