ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ。読書ブログを目指している雑記ブログ。2人の息子とじゃれ合うことが趣味。

『宮沢賢治童話全集』を聴いている

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昨年11月から利用している、オーディオブックのプラットフォームである「Audible」にゾッコンである。

 

gorone89.hatenablog.com

 

オーディオブックなぞすぐに飽きるかと思っていて、お試しに始めたのであるが、まんまとハマってしまった。僕の車通勤生活と非常にマッチしている。特に頭が空っぽの状態になっている朝に聴くのがいい。内容が頭の中に水が流れ込むように入ってくる。

 

紙の本の場合、書かれている文字を認識する。➡︎認識した文字を音声に変換する。➡︎内容を理解する。っていう段階を自然踏んでると思うのだが、オーディオブックの場合最初の文字を認識する段階をすっ飛ばすから、効率よく内容が頭に入ってくるのだ(読書に効率を求めるのどうかと思うが)。漢語が頭の中で漢字に変換できないことがある、考え事が多いとき集中力が続かないことがある、Audibleの書籍のラインナップがまだ少ないなど問題は多々あるものの、かなり気に入っているので、しばらくは聴き続けるだろう。

 

今聴いているのは、『宮沢賢治童話全集』である。

 

 

 
銀河鉄道の夜』、『セロ弾きのゴーシュ』、『やまなし』、『風の又三郎』、『どんぐりと山猫』、『ツェねずみ』、『なめとこ山の熊』、『注文の多い料理店』、『イーハトーボ農学校の春』、『毒もみのすきな署長さん』などなど、宮沢賢治の童話が全部入ってる。再生時間は全部合わせて34時間14分!
 
賢治の童話を聴こうと思い立ったのは、先日、NHKの『ブラタモリ』の「花巻」に行った回を見たため。岩手県花巻市は賢治の故郷である。番組では「花巻はなぜ宮沢賢治を生んだ?」というテーマで、賢治と花巻の関わりを探っていた。
 
花巻に流れる北上川の川岸には、多様な石が集まるという話が面白かった。石好きであった賢治はこの川岸によく石集めをしに来ていて、石っ子賢さんと呼ばれていたそうな。石好きは作品にも反映されていて、たとえば『銀河鉄道の夜』にはこんな素敵な一節がある。
 
河原の礫は、みんなすきとほって、たしかに水晶や黄玉や、またくしゃくしゃの皺曲をあらはしたのや、また稜から霧のやうな青白い光を出す鋼玉やらでした。

 

北上川の川岸には、海底からやってきた石と火山岩を同時に見つけることができる。東の北上山地から海底由来の石が、西の奥羽山脈から火山岩が運ばれてきて、北上川に合流するそうだ。北上山地は五億年ほど前には赤道付近にあって、現在の位置に徐々に移動してきた。で、その西側はぽっかり海になっていて、その海に火山活動で隆起してきたのが奥羽山脈なんだと。地質学好きのタモリさんが、「奥羽山脈は若造だ」と言ってたのが笑えた。
 
 

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僕は大学時代に一度花巻に行ったことがある。冬休みに、暇なのでとりあえず北に行こうと思い立ち、一人で青春18切符を使って鈍行で北上し、旅の初日に泊まることにしたのが花巻だった。初日の夜遅く、花巻駅に着いた。12月中旬で、雪が降り積もっていて、とにかく寒かった。
 
駅の外の喫煙所で煙草を吸いながら、これからどうしようかと考えていると、そこにやってきた女の子に声をかけられた。何の話をしたかは覚えていない。しばらくすると、車に乗った彼女の友達が彼女を迎えに来た。取り残された僕はどういうわけか猛烈に孤独を感じた。
 
その後、寒さに凍えながら、泊まるところを探し、なんとかビジネスホテルを見つけた。そこに泊まり、花巻の観光もせず、翌朝すぐに電車に乗り青森に向かってしまった。今思うと、あのとき花巻の宮沢賢治記念館にちゃんと寄っておけばよかったなあ。いつかまた行ってみたい。
 
 
 
自身が初めて読んだ宮沢賢治の作品は、『注文の多い料理店』。小学校の国語の教科書に載っていた。

 

注文の多い料理店 (新潮文庫)

注文の多い料理店 (新潮文庫)

  • 作者:宮沢 賢治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1990/05/29
  • メディア: 文庫
 

 

いつまでも自分たちが食べる側ではなく、食べられる側だと気づかない主人公の2人の男に当時の僕は「早く気づけよ」と苛立っていた気がする。が、大人になって再び物語世界に入ると、僕は彼らに同情せずにはいられなかった。

 

「まさかこんなことが起こるはずないだろう」という固定観念や思い込みが邪魔をして、非常な状況にとっさに対応できない。こういうことはよくある。僕は歳を重ねるほど状況の変化に対応する柔軟性を失っている気がする。そして、いつのまにか捕食される人間になっているのだ。

 

銀河鉄道の夜 (角川文庫)

銀河鉄道の夜 (角川文庫)

 

 

賢治の童話の中でおそらく最も有名であろう『銀河鉄道の夜』は中学校の朝読の時間に読んだ。家の本棚にある少ない本から適当にこれを選んで、学校に持って行っていた。

 

正直あの頃は、読んでいてとても退屈に感じた。そもそも読書自体が嫌いだったので、朝読の時間は苦痛でしかなかった。『銀河鉄道の夜』は遅々として進まず、僕は朝読の時間、机に落書きをしたり、登校中に酎ハイを飲んだ友人の赤くなった顔を眺めたりしていた。

 

で、今になって『銀河鉄道の夜』を読むと(実際には聴いた)、ひどく感動してしまった。上の川岸の石についての一節もそうだが、描写や文体がいちいち美しい。カムパネルラの死を前にした、優しいジョパンニの心中を想像すると、胸が締めつけられような思いにもなったのであった。

 

子供の頃と比べ、こういうのに感動できるようになったのは、単純に読解力が向上したのと、他者へ共感する心が自分の中でも一応育まれたってことかしらん。

 

 

 

宮沢賢治の天才的で独創性あふれる多彩な童話は、大人になった今だからこそ読むべきものかもしれません。子供の頃には得られなかった良い教訓も、物語から得られるはずです。