ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ。読書ブログを目指している雑記ブログ。2人の息子とじゃれ合うことが趣味。

電車での読書と『螺旋の手術室』と久しぶりに会った大学時代の友達の話

 

先日の土曜日、久しぶりに電車に乗った。目指すは新宿。

 

ちゃんとした社会人になる5年前くらいまでは電車をよく利用していた。ただ、今の職場は交通機関では行きづらい場所にあるので、ほとんど車を利用していて、電車には滅多に乗らなくなった。

 

電車を利用していた時はよく人間観察とかしていた。服装、仕草、会話の内容、読んでいる本などから、その人の生活や人生を想像する。こういう若い時の「自分は社会を外側から見てますよ」感は、今考えると非常に気持ち悪い。僕だって誰かからじっくり観察されていたかもしれない。(人間観察をするA、人間観察をするAを観察するB、人間観察をするAを観察するBを観察するC……)

 

人間観察を上回る電車内での楽しみは、やっぱり読書であった。あのころはどういうわけか電車内がもっとも読書に集中できる場だった。一時期、都心に通ってることがあり、片道一時間ほどかかったので読書がかなりはかどった。

 

先日の土曜日はカバンを持たずに家を出た。コートのポケットにスマホ、財布、家の鍵、文庫本一冊。電車に乗ると、空いていた端の席に座り、揺られながら文庫本を読んだ。

 

 

 

車内で読んだのは、知念実希人の『螺旋の手術室』。

 

螺旋の手術室 (新潮文庫)

螺旋の手術室 (新潮文庫)

 

 

純正会医科大学附属病院の教授選の候補だった冴木真也准教授が、手術中に不可解な死を遂げた。彼と教授の座を争っていた医師もまた、暴漢に襲われ殺害される。二つの死の繋がりとは。大学を探っていた探偵が遺した謎の言葉の意味は。父・真也の死に疑問を感じた裕也は、同じ医師として調査を始めるが……。

 

医療ミステリ好きの先輩が職場にいて、その人に「これを読もう」と勧められたので、借りた。フィクションの世界では病院でよく殺人事件が起きるけど、それは医療と生死がとても近いところにあるからかしらん。

 

実はミステリってジャンル、僕は食わず嫌い。それほど読まない。

 

僕が小説に求めているのは「人間」である。人間が丁寧に描かれてさえいれば、物語の筋に整合性がなくとも、もっと言ってしまえば、筋が支離滅裂でもかまわない。あくまで登場人物が主であり、筋が従である。筋は登場人物の人間性を描く舞台に過ぎず、逆であってはならない。ミステリはどうも読者の予想を裏切る意外な結末のために、筋があまりにもご都合主義的に進み、人間性の深掘りがないがしろにされているように思えてならないのである。

 

……これは偏見です、はい。ちゃんと面白いミステリを読んでないんですよ、僕は。面白いものはやっぱり面白い。

 

ちょっと悔しいけど、『螺旋の手術』の巧みさには舌を巻いた。主人公のまっすぐさや、彼を取り巻く家族の心の機微が非常にリアルに感じられたのである。同時に、一つひとつ手がかりが明らかになりながらも、より謎が深まっていく展開には、非常にドキドキさせられた。とにかく先の展開が知りたくてたまらなくなり、時間も忘れ、ページを繰った。

 

 

 

東京は夜の7時。新宿に来たのは久々である。にぎやかな雰囲気や鮮やかなネオンに何だか気持ちが高揚し、スキップをしたくなった。

 

約束の居酒屋に入ると、入り口の真正面のテーブルに、大学時代の男友達3人(K、S、M)が座っていた。このメンバーで集まるのは3年ぶりくらいである。彼らとは学部学科が同じであった。僕の大学時代に作った数少ない友人で、よく授業の合間にグダグダとしゃべったり喫煙したり、夜に麻雀をしたり、長期休みに旅行をしたりなどを一緒にした。

 

Kは関西でスポーツ新聞の記者をやっていて、Sは横浜で自動車部品の営業をやっていて、Mは六本木に住んでいて、仕事は……忘れた。僕とMだけ妻帯者である。Mはかなりイケメンであり、飲みに行ったりすると、よく近くのテーブルの女の子から声を掛けられていた。

 

そんなMにももう生後五か月の息子がいて、その息子にメロメロらしい。「相対的に言って、嫁さんより遥かに子供を愛してる」などと言い出す。さらに彼は、「嫁さんとは結婚して1年だけど、仲の良い友達のような感覚で、最近女性として見れない」と続ける。いつか妻と別れることになっても、それはそれでかまわないそうだ。

 

Mが大学生のとき、彼の両親は離婚した。離婚した後、彼の両親はそれぞれ新しいパートナーと楽しく過ごしているらしい。「別れても、また新しい楽しみが待ってるしね」と彼。どうやら今から別れることに前向きな様子にすら感じられる。ライトな結婚、ライトな離婚。

 

Kは現在、三人の女の子と付き合っている。器用な男である。誰と結婚を決めようか迷っているらしい。

 

Mが「やっぱり価値観が合う子がいちばんいいんじゃない?」と助言。僕も妻帯者としてそれに乗っかって、「何が好きかっていうことが同じかよりも、何が嫌いかっていうことが同じかってほうが大事かもね」などと適当なことを言ってみる。「そう!おれはそれが言いたかった!」とMは腰を浮かせて言う。だいぶ酔っているようだ。

 

僕はビールを一杯、ウーロンハイを三杯飲んだ。

 

 

 

好きなもの……鶏の手羽先、布団、ごろ寝しながらの読書、朝遅く起きたときに食べる朝食、休日の晴天、プリン、忙しいときに漏れ出るユーモアなど

 

嫌いなもの……寒い朝自己啓発書、バナナの入ったパフェ、感情をコントロールする努力をしない人、他者や環境ばかりに責任を押し付ける人、ほこりだらけの部屋など

 

 

 

友人に2件目も誘われるが、日曜日に仕事があったので、自分だけ先に帰った。

 

帰りの電車の中で『螺旋の手術室』を読んだ。酒が入っているのに、逆に物語に没入できた。しかしながら、電車内での読書は危険で、僕はこれまで何度も同じ間違いを犯してた。

 

最終章に差し掛かったころ、ふと電車の外を眺めて、自分が降りるべき駅を乗り越していることに気づいたのであった。