ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ。読書ブログを目指している雑記ブログ。2人の息子とじゃれ合うことが趣味。

『つみきのいえ』の話など

 
短編アニメ映画の『つみきのいえ』を見る機会があった。2008年度劇場公開作品。

 

つみきのいえ (pieces of love Vol.1) [DVD]

つみきのいえ (pieces of love Vol.1) [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2008/10/24
  • メディア: DVD
 

 

第81回アカデミー賞短編アニメ賞や、アヌシー国際アニメーションフェスティバルのグランプリなど数々の賞を受賞した当時の話題作であるが、今まで見たことがなかった。見ながら、つい目頭が熱くなってしまった。最近涙もろい。
 
映画の舞台は、海に沈みゆく街にある、まるで「積み木」のように重なった家。海面がどんどんと上がってくるので、住人は上へ上へと家を「建て増やし」続けてきたのだ。そんな家に一人で住んでいるおじいさんは、上への引っ越しの時に、誤って大切なパイプを海に沈んだ下の階に落としてしまう。潜水服を着て、それを取りに行くおじいさん。下の階に潜る毎に、おじいさんの心中には家族との思い出がよみがえってくる……。
 
 
 
老いたときに自然と思い出す記憶は、『つみきのいえ』のおじいさんが思い出すようなそれであってほしい。
 
人生の幸福を振り返ったとき、ペーパーテストで満点を取ったこと、宝くじで1万円あったこと、会社で昇進したこと、難易度の高いRPGを何十時間もかけてクリアしたことなど、他者との濃密なつながりとは関係ない、ごく個人的なささやかな成功体験しか思い出せなかったら、自分の人生ってなんて寂しいものだったんだろうと、僕であったら絶望するだろう。大切な人の共有した時間を思い出したい。些細な思い出であっても、それが大切な人との温かい思い出であれば、それを胸に抱いているだけで、自分の人生は満足できるものだったと思えるんじゃないかなあ。
 
つみきのいえ』に出てくる積み木の家は、すぐにわかるように、人生の比喩である。今を生きている部屋(空間)、大切な人との思い出が詰まった部屋(空間)に支えられている。
 
人生の節目節目にその空間の密度を上げること、つまり、他者に貢献したり、他者と体験や感情を共有したりして、関係性を深めることは、人生の課題であると思う。その課題に取り組まなければ、今の自身を支える土台はすかすかになり、自身の人生に価値を見出すことができなくなってしまう。
 
おじいさんが一人で、しかも家がどんんどんと海に沈んでいく一見悲観的な状況でも自暴自棄にならず、強く前向きに生きていられるのは、家族との数えきれないほどの大切な思い出が土台となり、これまでの人生をちゃんと肯定できてるからだと思う。
 
 
 
このままだと記事が短いので、昨夜見た映画も紹介。見たのは、『男はつらいよ ぼくの伯父さん』。週末に現在公開中のシリーズ最新作『お帰り寅さん』を見に行く予定なので、その準備として、子供が寝静まったあとに見た。
 

 

一応シリーズは一通り見ていて、この第42作も見たことあるのだが、相変わらず見ていて笑ったり泣いたりしちゃったな。このころは、寅さんの甥の満男が主役の位置にシフトしてきていて、寅さんは満男を支えるアドバイサー役となっている。

 

浪人生なのに勉強に身が入らず、しかも反抗的な満男に母・さくら、父・博は手を焼いているが、結局風来坊の伯父さんである寅さんがこの状況を救うことになる。伯父さんと甥っ子といった、こういう斜めの関係は、子供をよりよく育てるために大事な関係だということはよく知られている。この映画で満男は大きく成長する。

 

今作の寅さんの満男に語りかけるセリフは最高である。

 

俺はな、学問つうもんがないから上手いことはいえねえけども、博が俺にこう言ってくれたぞ。

自分を醜いと知った人間は決してもう、醜くねえって……

 

自身のことを「根無し草」と例える寅さんだが、しっかり根を張っている。葛飾にあのような温かい帰れる場所、大切な人の思い出が詰まっている場所があるからこそ、寅さんは自由気ままに旅を続けられるのだ。

 

僕の弟は 『男はつらいよ』の熱狂的なファン。『お帰り寅さん』の公開前、弟に「『お帰り寅さん』楽しみだな」とLINEにメッセージを送ったら、「全然興味ない」という返事とともに、以下の弟宅にあるトイレの扉の画像が送られてきた。

 

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『お帰り寅さん』は予告編と以下のあらすじだけで泣けちゃったなあ。

 

諏訪満男は小説家になった。中学3年生の娘と二人で暮らしている。最近作は好評だが、次回作の執筆ははかどらない。最近、夢の中に初恋の人・イズミが現れるなど悩みは尽きない。そんな折、満男は妻の七回忌の法要で柴又の実家を訪れる。柴又の帝釈天の参道にあった「くるまや」はカフェに生まれ変わっていた。法事のあと、母・さくら、父・博たちと昔話に花が咲く。そして寅さんたちとの楽しかった日々を思い出す…。

 

 『お帰り寅さん』、見に行くのが楽しみである。

 

 

 

つみきのいえ』や『男はつらいよ ぼくの伯父さん』を見ているときも考えていたのですが、周囲の人とちゃんと向き合って、関係を深めていくことって本当に大事なことだよなあ。近頃そればっかり考えてる。僕はかなりの面倒くさがりなので、人付き合いは昔から避けがちなのですが……。

 

教育関係者としては、今どきの子供はコミュニケーションが上手にとれないと嘆くのではなく、コミュニケーション能力は、教え、習得させるものであると発想を転換して、「人とつながりたい」「つながって楽しい」と自然に思える場を意識的に設計していかなくてはならないと考えています。