ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ。読書ブログを目指している雑記ブログ。2人の息子とじゃれ合うことが趣味。

『ロボ・サピエンス前史』の話-ホモとロボのあいだ


 

しびれる漫画を読んだ。タイトルからもうしびれる。その名も『ロボ・サピエンス前史』。

 

ロボ・サピエンス前史(上) (ワイドKC)

ロボ・サピエンス前史(上) (ワイドKC)

 
ロボ・サピエンス前史(下) (ワイドKC)

ロボ・サピエンス前史(下) (ワイドKC)

 

 

ロボットの探索を職とするサルベージ屋、だれの所有物でもない「自由ロボット(フリードロイド)」、半永久的な耐用年数を持つ「時間航行士(タイムノート)」……。さまざまな視点で描かれるヒトとロボットの未来世界。時の流れの中で、いつしか彼らの運命は1つの大きな終着点に向かって動き出していく……。世界の行く末を壮大に夢想した、ロマンティック・ヒューチャー。

 

ヒトとロボットの未来像がオムニバス形式で想像力豊かに描かれている。物語も魅力的だが、なによりまず惹かれるのはその絵である。

 

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シンプルで、スタイリッシュで、クール。物語に登場するロボットのように感情が廃されたかのような絵なのに、どういうわけか心が揺さぶられ、ロマンすら感じてしまう不思議な絵なのである。

 

 

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どこか手塚治虫のSF作品を彷彿とさせる漫画である。手塚治虫がまだ生きていて、現在のテクノロジーの発展の仕方とそこから予想される未来の可能性を理解していたとしたら、あるいはこんな物語を描いていたかもしれない。

 

突飛に思える未来像かもしれないが、僕は『ロボ・サピエンス前史』のような未来がやってくるような気がしてならない。きっと人工知能が社会の手綱を引く時代は、かつてのSFで描かれた、ロボットの反乱のような大きな事件があってやってくるのではなく、この漫画に描かれたようにジワリジワリと人工知能がヒトの生活に入り込み、いつの間にかやってくるのである。

 

様々なロボットが物語に登場するが、僕が印象に残ったのは、放射能の管理を25万年という長期間任される恩田カロ子。かわいらしい見た目。

 

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長期間と書いたが、それはヒトの感覚であって、ロボットは苦痛と感じない。彼らに感情はなく、理性を駆使し、生きている。感情はないんだけど……、命令に素直に従い、任務を遂行する人型のロボットを目の前にすると、僕ら読者は心動かさずにいられない。感情のない対象に、愛情を向けることは間違っていることだろうか?

 

任務終了後に、自分を作った博士の言葉を思い出す。博士は「幸せになりなさい」と言った。カロ子はその「任務」も果たそうと動き出す。

 

人口知能を持った人型ロボットは本物のヒトではないかもしれないが、全くヒトとは違うものとは言い難い。これほどまでに人工知能が発展したとき、人類はそれらとどのように向き合うべきだろうか。敵対し、排斥するか、それとも愛情と寛容を持って迎え入れるだろうか。もしかすると、それを決めかねているうちに、この漫画で描かれたように、人類のほうが人工知能に見限られてしまうかもしれない。

 

 

 

まあ、ヒトの感情、または意識といったものも、結局は遺伝子やホルモン、ニューロンに支配されたアルゴリズムの結果に過ぎない。歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリは『ホモ・デウス』の中で、ヒトの感情や意識は、「単なる脳内データ処理の結果にすぎない」と言っている。そうだとすると、ヒトと人工知能は本質的には違いがないのではないか。

 

gorone89.hatenablog.com

 

『ロボ・サピエンス前史』のロボット達が恐ろしいものではなく、愛らしいものと好意的に感じられるのは、彼らのことを、ヒトがアップデートし続けた先にある未来像だと捉えてしまうからではないか。

 

ヒトと人工知能はデータ処理をしながら行動するという同じところはあるものの、人工知能は基本的にヒトがするような失敗や勘違いや忘却をしない。そしてもちろん身体の衰弱もない。ヒトは自分達の不完全さを非効率的なものとして嫌い、なんとか克服しようとこれまで努めてきたし、昨今ではインターネットのデータフローと一体になろうと欲望しているほどだ。人工知能は、ヒトが自分もそうありたいと願う、理想の存在なのだ。

 

ロボット達をヒトの発達した姿と捉え、『ロボ・サピエンス前史』に登場する博士のようにロボットを自分達の子供のように思うことができれば、『ロボ・サピエンス前史』に描かれたのような未来がやってくるのも、それほど悪いことではないんじゃないかなあ。