ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ。読書ブログを目指している雑記ブログ。2人の息子とじゃれ合うことが趣味。

名画座での思い出や学びの話

 

名画座とは、主に旧作映画を主体に上映している映画館である。たくさんのスクリーンで新作を代わる代わる上映するTOHOシネマズやイオンシネマなどのシネマコンプレックスの台頭で、名画座は一時代よりも大分減ってしまったようだけど、探せば、それぞれ特色のある素敵な名画座がまだ結構営業している(都内中心に)。

 

miwaku-meigaza.com

 

僕が学生時代によく通っていたのは、シネマヴェーラ渋谷神保町シアター、銀座シネパトス(閉館)、飯田橋ギンレイホール早稲田松竹、横浜シネマジャック&ベティ、川崎市アートセンターなどである。

 

今や、昔の名作映画は、DVDやインターネットで自宅や移動中にお手軽に視聴できる時代だ。しかし、映画館で見ると、やっぱり映画館効果ってのがあって、スクリーンで見ることであったり、他人と観賞を共有しているという感覚だったりで、鑑賞の感動が倍増するのである。

 

旧作映画は名画座で見ることをお勧めします。

 

 

 

学生の頃、Twitterで知り合った何人かの同じ映画好きの学生と、シネマヴェーラ渋谷に『四畳半襖の裏張り』(1973年)を見に行ったことがある。『四畳半襖の裏張り』は、日活ロマンポルノ作品の一つである。

 

日活ロマンポルノは、簡単に言うと、70年代から80年代にかけて映画製作会社の日活で作られた、成人向けの官能映画である。僕は一時期、名画座やDVDで熱中して見ていた。

 

……と、それほど映画好きではない人にこれを話すとひかれることが多いのだけれど、日活ロマンポルノには日本映画史に残る傑作が多くあり、これらの映画はたくさんのスターや映画人を生み出してきた。

 

2012年には、日活創立100周年を記念して、『生きつづけるロマンポルノ』という企画が行われ、たくさんの名画座で、日活ロマンポルノのリバイバル上映が行われていた。

 

『四畳半襖の裏張り』は、永井荷風の『四畳半襖の下張り』を下敷きに、「エロスの巨匠」神代辰巳が監督した作品である。大正期の東京の花街を舞台に、男女の悲喜こもごもを描く。

 

この映画がシネマヴェーラ渋谷で上映されるということで、Twitterで仲良くなった人たちと約束をして見に行った。(以前はTwitterに夢中でしたが、もうやめました)

 

僕はこの映画はそのとき初鑑賞であった。笑えるシーンが多く、かなり楽しんだ気がする。(うろ覚え)

 

観賞後、一緒に観賞した人たち(5人くらいだった気がする)と、居酒屋に行き、飲みながら映画の感想を語り合った。そして話は、映画のクライマックスの場面のことになった。

 

物語の終わりの方で、主要人物の一人である男がシベリアに出兵することに決まる。シベリアに行くことに嘆きつつ、男は愛する女と最後の交わりを行う。

 

行為を終えて、女は「これを弾除けのお守りとして持って行って」と言い、自分の下の毛を男に渡す。それを受けた取った男は、後ろ髪引かれる思いで、シベリアへと向かうのであった。

 

「あの男、シベリアに行ったら、すぐに死にますね」と一緒に飲んでいた、いかにも頭の良さそうな男の人が言った。

 

「なぜですか?」と僕は聞いた。

 

「下の毛はよく『たま』が当たるところだからです」

 

なっ、なるほど〜。僕は彼の観賞力に感心してしまった。

 

 

3

 

僕が最も好きだった名画座は、神保町シアターである。

 

www.shogakukan.co.jp

 

 2007年に開業した比較的新しい名画座で、建物の外装や内装は、本の街、神保町にはそぐわぬ奇抜さである。様々なテーマにちなんだ日本映画の名作を上映している。

 

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日本映画と、古書店の並ぶ神保町が好きな僕は、暇があるとここに通っていた。旧作の日本映画を上映しているので(たまに無声映画特集とかもやってる)、観客の年齢層は高めである。

 

映画に対する観賞の心構えは、この神保町シアターで出会った一人のおじいさんから学んだ。

 

僕の隣の席に座っていたそのおじいさんは、なんと上映前からすやすやと眠っていたのである。

 

神保町シアターは、他の名画座のように二本立てや三本立てではなく、シネコンのように完全入れ替え制である。入場してから、寝るまでのスピードが速すぎる。しかも、いつ起きるのかと隣を気にしてが、上映開始一時間後くらいまでずっと眠っていたのである。

 

彼は観賞の達人だと僕は思った。

 

僕はそれまで映画を見るとき、支払ったお金と割いた時間を少しでも意味のあるものにしたいという思いから、一分一秒も見逃さないつもりで肩の力を入れて見ていた。しかし、そんな前のめりな観賞の仕方をして、本当に映画を楽しんでいると言えるだろうか。

 

僕はあのおじいさんの仙人のような観賞態度を見て、これまでの自分自身の観賞への姿勢を恥じた。

 

彼はあまりに自然体であり、お金や時間に執着はなく、しかも映画を見ることでさえも、さほど重要視せずに映画を見に来ていたのである。……敵わねえ。

 

それから僕は、映画を心から楽しむため、映画館で映画のチケット代を支払っても、その映画を見ず、ファミレスでパフェを食べて家に帰っても別にいいというような心がまえで映画館に行くようになった。

 

 

4

 

この年末年始、久しぶりにどこかの名画座に行きたいなあ。

 

旧作映画にはどんな名作があるのか知りたいという人は、入門書として、キネマ旬報社が2009年に出版した『オールタイム・ベスト 映画遺産200』をお勧めします。

 

オールタイム・ベスト 映画遺産200 日本映画篇 (キネ旬ムック)

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