ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ。読書ブログを目指している雑記ブログ。2人の息子とじゃれ合うことが趣味。

とにかく映画が見たくなる!ー『仕事と人生に効く教養としての映画』を読んで

 

映画が見たい……! ちゃんと見たい!

 

学生時代は三度の飯より映画が好きであった僕であるが、ここ数年は仕事や育児の忙しさを言い訳に映画をみる機会がめっきり減り、映画への思いもすっかり冷めてしまった。が、『仕事と人生に効く教養としての映画』を読んで、その思いは激しく再燃した。

 

 

本書は映画をどう見ればいいのか、そしてどのように仕事や人生に活かせばいいのかのヒントを教えてくれる。その教えの明快さ、そして、映画研究者である著者の行間から滲み出る映画に対する強い愛が、僕に火をつけた。

 

映画が無性に見たくなり、まずは4歳の息子と『トイ・ストーリー』を見た。『トイ・ストーリー』は『仕事と人生に効く教養としての映画』のプロローグで紹介される映画である。著者は『トイ・ストーリー』とアメリカ人のフロンティア精神の関係について他の人気映画を巧みに引用しながら解説することで、本書の入り口に立ったばかりの読み手の心を鷲掴みにする。

 

 

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「仕事に効く」と冠された本書。僕は映画を見てきたことが、仕事の役に立ったことがあったかどうかを思い返してみた。

 

……あれは、職場でのとある会議であった。その会議の中で、「支援を再び厚くしていかなくてはなりませんね」というような発言があった。その発言を受けて、ある年配の上司が「シェーン、カムバック」とボソリと、しかし会議の参加者の全員には聞こえるぐらいの声の大きさで言った。その上司は日頃からよく意味のわからないギャグを連発する人で、僕も含め職場の人から疎まれていた。会議での上司のその発言も「またわけのわからんこと言ってるよ」という白けた空気によって軽く流され、会議は何事もなかったかのように続行された。

 

しかし、映画好きだった僕だけが、このギャグの教養の深さを理解していた。「シェーン、カムバック」は、古典ハリウッド映画の名作西部劇である『シェーン』(1953年)での最も有名なセリフである。あの一瞬で、「支援を再び」とこの名ゼリフをかけるとは……。この会議をきっかけに、僕の中のその上司に対する評価は爆上がりしたのであった。

 

……いやいや、だめだ、こんなくだらない思い出しか出てこない。『仕事と人生に効く教養としての映画』の第1講では、映画を見ているとどのようないいことがあるかが以下の5点に整理されている。

 

①感情の起伏を経験し、内省を深めることができる

②他人の人生を擬似体験できる

③異文化に触れることができる

④知識を身につけるきっかけになる

⑤人間としての魅力が増す

 

なるほど! 各効用の説明には説得力がある。映画を見る1つ目の効用である「感情の起伏を経験し、内省を深めることができる」の項には、

 

映画を通して感情の起伏を積み重ねていくと、自分の感情の振れ幅がわかるようになります。

 

とあり、また、「自らの感情の動きを知り、内省を深めてそれをコントロールできるようになる」とある。

 

そういえば僕は仕事などでピンチに陥ったときに、その状況とそこに置かれた自分自身を、離れたところからあたかも映画観客となって見つめるイメージをする癖がある。このイメージは、状況と自分の感情を冷静に分析し、ピンチから脱するのに役立っている。本書を読んで気が付いたが、この自分の認知活動を客観的に捉える力(いわゆるメタ認知)は映画を意識的に見ることによって鍛えられてきた部分が大きいのではないか。

 

著者は言う。

 

私は「映画を意識的に見ることは、人間としての能力の底上げや人生の向上につながる」という確信を抱いています。

 

映画ってやっぱりスゴい……!

 

 

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僕が本書の中で特に面白さを感じたのは、黒澤明溝口健二小津安二郎といった日本映画の巨匠の作品の魅力が語られる第3講と第4講である。

 

映画が好きだった僕はよく人におすすめ映画を紹介していたが、古典の日本映画を見てもらうのが特に難しかった。「白黒の邦画」というだけで、見る側の心理的ハードルがぐっと高くなり、敬遠されてしまうのだ。

 

しかし、本書は実際のショットの画とともに、研究者の視点で、その映画の魅力や巨匠たちのテクニックの緻密さを段階的に丁寧に解説してくれるので、読み手の誰もが「見てみようかな」という気持ちにさせられるだろう。溝口監督の『お遊さま』(1951年)の導入部での連鎖のショットのすごさや、小津監督の映画文法のずらし方の例の解説などは目から鱗

 

こういった巨匠の巨匠たる理由を知っていると、映画を見ることへの意識が変わり、現代映画の楽しみ方もぐっと広がるはずである。

 

 

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本書が映画の見方を学ぶ他の入門書と一線を画すのは、映画を見た後、それをどのようにアウトップットしていくのかについて語られているところだと思う。学生時代の僕もやっていたが、著者はまずは鑑賞記録をつけることを強く勧めている。

 

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僕の学生時代の映画鑑賞ノート

 

SNSでの映画の発信のコツなんかもあり、映画を見て抱いた思いを発信したいけど、うまく言葉にすることができないでいる人には必読。著者は「映画をよく見てそれについて書くことが、よりよく生きることにつながると信じている」と述べているが、これはかなりの名言である! 熱い!

 

また、著者は「『映画を見る会』を開こう」と勧める。誰かと一緒に映画を見て、観賞後に意見を交わし合う場は「重要なアウトプットの場である」と言う。著者は、大学時代に様々な人に声をかけ「映画を見る会」を開いていたそうだ。

 

ー実は僕も学生時代に著者である伊藤弘了さんにtwitter経由で誘われ、一緒に2回ほど映画館に映画を見に行ったことがある。観賞後、鑑賞をともにしたメンバーと作品について語り合ったが、語り合うことで、作品の理解がより深まった。この理解の深まりには、一人で見て考えるだけでは絶対に辿り着けなかったであろう。(伊藤さん、その節はお世話になりました。)

 

 

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映画を普段あまり見ない人にはもちろん、映画が大好きな人にも自信を持って『仕事と人生に効く教養としての映画』はおすすめできる。映画の楽しみ方が広がり、とにかく映画が見たい!という気持ちになる一冊である。

 

なかなか外出のできないこのコロナ禍の夏休み、この本を傍らに、映画鑑賞に没頭してみてはいかがでしょうか?