ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ。読書ブログを目指している雑記ブログ。2人の息子とじゃれ合うことが趣味。

2019年下半期に読んだ、心に残る10冊の本

 

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2019年下半期に読んだ本の中から、心に残った10冊を紹介します。

 

『明暗』(夏目漱石

明暗 (新潮文庫)

明暗 (新潮文庫)

  • 作者:夏目 漱石
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/01
  • メディア: 文庫
 

30歳の痔持ちの主人公に妙な親近感を抱いた。登場人物たちの掛け合いが文句なしに面白い。夏目漱石の遺作であり、未完の傑作。絶対に描かれたはずであろう主人公の現妻と元恋人との対決の前に小説が終わっていることで、様々な想像が駆り立てられる。未完であることが逆に、この小説の完成度の高さを揺るぎないものとしているのではないか……?

 

善の研究』(西田幾多郎

善の研究 <全注釈> (講談社学術文庫)

善の研究 <全注釈> (講談社学術文庫)

 

他者と喜怒哀楽を共にするとき、僕の心(=いのち=愛)は、他者のために動いているのと同時に、他者によって動かされている。主語が不明瞭になり、「あたま」で考える前の、能動とも受動とも言いがたいありのままの体験(純粋)で感じたこと(もの)こそが「実在」であると西田は言っている(多分)。

西田はこの「実在」に神の存在を見いだしている。「愛」の作用でしか神は捕捉できない。何かを学べば学ぶほど、僕は自身を「思想」「思慮分別」「判断」でガチガチに武装している気がする。そして「心」=「いのち」=「愛」をないがしろにしているのではないか。この武装は非常に利己的な行為であると思う。ありのままの自分や、対象(他者)とのありのままの関係は、「愛」による「利他」「無私」の中でしか立ち現れないのである。
善の研究』を読むことで、「愛」の力を大切にし、「自他合一」を心がけたいという思いに至った。時間がかかってもいいので、いつか西田の言う「最上の善」の境地にたどり着きたい。
 

妻が『名探偵コナン』の漫画をなぜか大人買いした。僕はアニメは結構見ていたけれど、漫画はほぼ読んだことがなかったので、現在妻の『コナン』を読み進めている。やっぱりコナン君面白い。コナン・ドイルアガサ・クリスティーなんかの小説が、下敷きにしたりしてるんだろうなあと思うと、にわかにミステリの古典を読みたい気持ちになった。ちなみに僕はミステリの知識は無に等しい。

ということで、海外ミステリを取り上げるブログ「僕の猫舎」のぼくねこさんの記事を参考に、本書を手に取った。

www.bokuneko.com

犯人の候補は10人。僕はカタカナの名前が大の苦手なのだが、とにかく人物描写が上手く、キャラが立っていたので、「これ誰だっけ?」と立ち止まることなく、一気に駆け抜けることができた。手に汗握り、ヒリヒリとした怖さがある。頭をフル回転させ犯人を予想したが、結局大外れ、最後まで翻弄されっぱなしであった。

 

復活の日』(小松左京

復活の日 (角川文庫)

復活の日 (角川文庫)

 

爆発的な勢いで世界各地を襲う殺人ウィルスを前に、人類はなすすべもなく滅亡する……。この滅亡の過程が非常に凄惨で辛い。特に子供が苦しむ描写は泣いてしまった。自分は人類の滅亡は免れないと分かったら、どういう行動を取るだろうかと想像してみたりした。

自然を支配していると考えることがいかに愚かかということを痛感する物語であった。ただ、同時に、物語から人類の力に対する強い信頼も読み取ることができる。絶望と希望が同時に味わえる、SF小説の傑作。

 

『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 

人間に臓器を提供するために生み出されたクローン人間である子供たちの物語……という設定に嫌悪感を抱きつつも、ページを繰る手は止まらなかった。丁寧な感情描写で、登場人物たちがリアルに感じられ、つい感情移入せずにはいられなかった。

悲しく辛い運命を受け入れた彼らの迎える結末に、寂寞感と喪失感で胸がいっぱいになり、読後3日くらいぼーっとしてた。カズオ・イシグロの小説を読むのは本書が初めて。

 

『三体』 (劉慈欣

三体

三体

  • 作者:劉 慈欣
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/07/04
  • メディア: ハードカバー
 

警察官の史強(シー・チアン)をはじめとした魅力的でクセの強い登場人物たち、興奮が止むことのないストーリーの高いエンターテイメント性、それを支える科学の知識と中国の激動の現代史。小説『三体』のどこが面白いかと聞かれれば、挙げられるものはキリがないのであるが、この物語を特別なものとしているのは、なんといっても「三体」というタイトルの物語内ゲームのアイディアである。

 VRゲーム「三体」の世界では、気候が比較的安定する「恒紀」と、気候が人類が滅亡するほど荒れ狂う「乱紀」が交互にやってくる。三体世界は勃興と崩壊を繰り返し、ゲームのプレイヤーの力を借りながら、文明のレベルを更新していく。

主人公のひとり、汪淼(ワン・ミャオ)は乱紀の原因を、三つの太陽が引き起こす「三体問題」であると推察する。三体問題とは、質量が同じ、もしくはほぼ同程度の三つの物体が、たがいの引力を受けながらどのように運動するかという、古典物理学の代表的な問題である。この問題には一般解が存在しないと言われているが、この問題を解決しない限り、プレーヤーは三体世界を救うことはできない。

このゲームのシステムと世界観がめちゃくちゃに面白い。これを思いつく作者の発想力と描写力のたくましさ……僕は思わずため息が出た。続編の邦訳も楽しみである。

 

 『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

ケーキの切れない非行少年たち (新潮新書)

  • 作者:宮口 幸治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/07/12
  • メディア: 新書
 

本書の著者は小・中学校に定期的に行って、学校コンサルテーションを行なっている。「そこでは学校で先生方に困っている子どものケース事例を出してもらい、みんなでどうするかを考えていく」そうだ。ここで出てくる対策のほとんどは「褒める」に終始し、著者は「またか」とうんざりすると言う。

「褒める」教育だけでは、特に本書が取り上げている認知力の低い子どもにとっての問題の根本的な解決にはならないし、褒められないと何もできない、挑戦しようとしない人間にもなりかねない。

著者は、困っている子どもたちに対して使われる「この子は自尊感情が低い」という紋切り型フレーズにも批判的である。まず、「色んな問題行動を起こしている子どもは、それまでに親や先生から叱られ続けていますので、自尊感情が高いはずがない」し、さらには、自尊感情は「無理に上げる必要もなく、低いままでもいい」と著者は言う。

この部分を読めただけでも、この本に出会えてよかったと思った。本書で著者は、認知力の低い子どもへの具体的な支援策も紹介している。子どもの教育に関わるすべての人に読んで欲しい本である。

 

『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』(東畑開人)

居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく)

居るのはつらいよ: ケアとセラピーについての覚書 (シリーズ ケアをひらく)

 

本書には、デイケアのぬくもり、寂しさ、希望、苦しみ、そしてあぶり出される問題点がバランスよく凝縮されている。物語風、エッセイ風に書かれているので、非常に読みやすく、最後までさくさくと楽しんで読めた。

最も印象に残ったのは、「居ること」のつらさに心が折れた、主人公であり心理士であるトンちゃんの「デイケアアサイラムではないか」という発見である。「アサイラム」とは、「収容所とか、刑務所とか、あるいは古い精神科病棟のように、そこに『いる』人を画一的に管理する場所」だそうだ。

トンちゃんの務めるデイケアでは「いる」ことにつらさに耐えかねた職員が次々と辞めていく。デイケアの「アサイラム」化は、ある「声」によって引き起こされているのだ。その「声」の正体こそ、本書にとって最大の謎である。その「声」とは、一体何なのか……それは本書を手に取ってお確かめ下さい。

 

 原子力時代における哲学』(國分功一郎

原子力時代における哲学 (犀の教室)

原子力時代における哲学 (犀の教室)

 

僕は國分先生のファンで、『暇と退屈の倫理学』 や『中動態の世界』は愛読書である。本書もかなり楽しめた。ソクラテスプラトン以前の古代の哲学者や、原子力の危険性を最初に指摘した哲学者ハイデッカーの考えを引用し、原子力技術に対してどのように向き合うべきかを探っていく。

論の展開がわかりやすく、一層、國分先生の信者になったのであった。(本書ではこういったドクトリンへの熱狂は、「思惟からの逃走」であると強く批判されています。)

 

 『哲学人生問答 17歳の特別教室』(岸見一郎)

哲学人生問答 17歳の特別教室

哲学人生問答 17歳の特別教室

  • 作者:岸見 一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/10/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

僕は『嫌われる勇気』と『幸せになる勇気』の隠れ信者で、こそこそ読み返している。本書は、アドラー心理学ブームの火付け役になった岸見一郎先生が高校生たちの質問に真摯に答える。「自分の人生を自分のものとして生きる」ためのヒントが詰まっていて参考になるし、岸見一郎先生の人柄の良さもかなり伝わってくる。自分の子供が高校生になったとき読ませてみたい本である。

 

それでは皆様、2020年もステキな読書ライフをお送りください!!