ゴロネ読書退屈日記

ゴロネ。読書ブログを目指している雑記ブログ。2人の息子とじゃれ合うことが趣味。

『社会学史』、『誰の味方でもありません』、『未来を生きるスキル』の話

 

近頃、最近刊行されたばかりの3人の社会学者の新書を同時進行で読んでる。どれもとても面白いので紹介します。

 

 

社会学史』(大澤真幸

 

社会学史 (講談社現代新書)

社会学史 (講談社現代新書)

 

 

著者は大澤真幸

 

大澤真幸(おおさわ まさち)

1958年生まれの社会学者。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。千葉大学助教授、京都大学教授を歴任する。著書に『ナショナリズムの由来』(講談社毎日出版文化賞)、『自由という牢獄』(岩波書店河合隼雄学芸賞)などがある。

 

大学時代に社会学部に在籍していた僕は「社会学史」の授業を履修していたが、あの頃は映画と女の子のことで頭がいっぱいであったので、勉強ことなどほぼ記憶にない。しかしながら、今更ながら社会学を体系的に学びたいという気持ちがにわかに盛り上がっており、ファンである大澤真幸先生のこの最新刊を手にした。自分にとっては丁度いい難しさであり、社会学史の事実を並べるだけでなく、そこに著者独自の解釈を交えていて、知的好奇心を刺激される。

 

著者は社会学の歴史の性格を以下のように説明している。

       

   社会学が、今日の目で見て社会学らしい社会学になるのは十九世紀のことです。「近代」というのは曖昧な言葉ですが、とにかく近代社会がある程度成熟しないと、つまり産業革命フランス革命を経て、かなり今風の社会にならないと社会学は出てこない。なぜならば、社会学自身が社会現象だからです。

   つまり、社会現象を説明するのが社会学だとすれば、社会学そのものも社会学の対象になる。したがって、社会学の歴史は、それ自体が一つの社会学になるのです。 

 

この『社会学史』には、デュルケームジンメルヴェーバーパーソンズルーマンフーコーなど様々な社会学者が登場する。本書ではフロイト社会学者のひとりに加えている。突飛な論に思える、「エディプス・コンプレックス」や「去勢コンプレックス」を、社会秩序の可能性について問う社会学にとって、非常に重要な仮説であると位置づけているのが面白い。屈折しているように見えるフロイトの人間観がいかに道徳や規範が生まれてくるメカニズムと深く結びついているかの明快な解説が読みどころ。

 

著者がヴィム・ヴェンダース監督の映画『ベルリン・天使の詩』を登場する天使を例にし、社会学者の姿勢を語っている部分も印象深い。ちょっと長いけど、引用します。

 

天使は、人間には見えないのですが、実は、あたりにいっぱいいるということになっている。そして、天使には、人間がやっていることとか心の中で思っていることが全部見えていて、彼らはそれを記録に残している。人間のほうからは見えないが、天使のほうからは私たちが見えていて、ずっと人間を観察しているわけです。天使と人間とはコミュニケーションや相互作用ができない。ということは、天使は、人間の世界の傍観者です。

(中略)

ヴェンダースのこの映画は、天使がもっている洞察力とか、天使が人間を見抜いているということを中心的な主題にしているのではありません。むしろ傍観者にとどまり続けざるえない天使の哀しさが主題です。最終的に主人公の天使は人間になる。天使だったら永遠に生きられるのに、人間になって死にうる身体を手に入れて、人間の女と恋をするのです。ですから、この映画は、天使としてのあり方をポジティブに描いているわけではありません。

   なぜ脱線して、ヴェンダースの映画のことを説明しているかというと、私はこう考えるからです。社会学という知にとっての究極の課題は、目一杯天使でありつつ、完全に人間であることはいかにして可能か、にあるのだ、と。人間世界に対する冷静な観察者でありながら、同時に人を愛することがいかにして可能か。社会学という知が目指すことは、これだと思います。

 

「人間世界に対する冷静な観察者でありながら、同時に人を愛することがいかにして可能か」という部分に心打たれた。本書を読み進めると、こういった著者の社会学に対する真摯な態度と愛がひしひしと伝わってくる。社会学に興味を持つ取っ掛かりの手引きとして、本書は非常にオススメ。

 

 

『誰の味方でもありません』 (古市憲寿

 

誰の味方でもありません (新潮新書)

誰の味方でもありません (新潮新書)

 

 

著者は古市憲寿

 

古市憲寿ふるいち  のりとし)

一九八五(昭和六十)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。
若者の生態を的確に描出した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目され、メディアでも活躍。他の著書に『だから日本はズレている』『平成くん、さようなら』など。

 

歯に衣着せぬ発言で、何度も炎上する彼だが、それでもメディアから追放されることなく、今でも引っ張りだこなのは、彼の物言いを「もっともだ」 とか「言いにくいことをズバッと言ってくれる」と感じている人が少なくないからであろう。僕も社会での過剰な正論に辟易することが度々あり、正論とは少しずれた彼のシニカルな語りを欲する気分になることがある。

 

彼の社会を見つめる視点は独特であり、ときに正論を振りかざす人を怒らせたりもするが、彼は決して社会を嫌っているわけではない。逆に、社会に愛を感じていて、よく社会を観察しているからこそ、人から憎まれないギリギリの鋭い意見が出来るのである。彼の小説『平成くん、さようなら』を読むと、彼が自分の発言が人々にどのように受け止められるかをすべて計算済みであるかのように思える。過剰な正論に息苦しさを感じる若者は、彼のスタンスがひとつの新しいモデルになるんじゃないかな。

 

『誰の味方でもありません』は、「週刊新潮」での彼の連載エッセイをまとめたもの。一つひとつの話がユーモラスで、社会から一歩引いた視点で語られており、非常に面白い。例えば、「『限定』は常に『定番』に劣る」話。

 

   そろそろ街にハロウィン限定商品が並び始める頃だ。僕もすでにパンプキン味のチョコレートやケーキを見かけた。断言しよう。そのほとんどは大して美味しくない。なぜなら、本当に美味しい商品が開発できたなら、「限定」ではなく「定番」に鞍替えされているはずだからだ。

(中略)

   「定番」とは、流行し続けるもののことだ。それは決して時代遅れの遺物なのではない。「定番」をバカにする者は「定番」に泣く。たとえば、文字の読み書きはかれこれ6000年くらいブームが続いているし、株券も400年以上流行している。すっかり社会に欠かすことのできない定番だ。

   考えてみれば、どんな定番も初めは一時的な流行だったかも知れない。人類は、無謀な試みを繰り返し、定番を増やしてきたのだ。

 

くすりと笑えたり、新しい気づきが得られたりと、本書を読み終えたときには、社会の見え方がちょっと変わっているかもしれない。

 

 

『未来を生きるスキル』(鈴木謙介

 

未来を生きるスキル (角川新書)

未来を生きるスキル (角川新書)

 

 

著者は鈴木謙介

 

鈴木謙介(すずき けんすけ)

1976年生まれ、福岡県出身。関西学院大学先端社会研究所所長、社会学部准教授、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員。専攻は理論社会学。サブカルチャー方面への関心も高く、2006年よりTBSラジオ文化系トークラジオLife」のメインパーソナリティをつとめる。著書多数 

 

彼は僕のお気に入りのラジオ番組「文化系トークラジオLife」のメインパーソナリティである。番組内では「チャーリー」と呼ばれている。ラジオでの軽妙な語り口は非常に親しみやすいが、『カーニヴァル化する社会』などチャーリーの著書は結構難解で読解するのに苦労した。

 

ところが、最新刊『未来を生きるスキル』は語り下ろしということもあり、非常にわかりやすく、ラジオでのチャーリーの語りを聞くように、すらすらと読めてしまう。チャーリーの素敵なところは、どんなに現代の社会状況が絶望的に見えようとも、調査やデータを踏まえて、愛を持った考察で、未来に希望を見出そうとする姿勢があるところである。『未来を生きるスキル』でも、そんな希望の話が様々語られている。

 

本書では、未来を生きる上での求められる重要な力として、「協働」という言葉を挙げている。(そういえば、現在の学習指導要領でも「協働」は大事なキーワードだ)

 

協働とは、必ずしも優れた点があるわけではない「ふつうの人」たちが、それぞれ異なる価値観や能力を持ち寄って、特定の課題を解決するために協力するということです。

 

「協働」する組織として僕がすぐに思いついたのは、映画『シン・ゴジラ』での「巨大不明生物特設災害対策本部」である。ああいう緊急事態ではないと、絶対にチームになることなどだいだろう価値観がバラバラな人たちが、自分たちの能力を持ち寄って課題の解決に向かっていく姿は非常に面白いし、そういう組織にいる人は充実感を持っているように思える。チームスポーツをやっていた自分はそんな「協働」できる組織に非常に憧れがあるし、社会生活の中で「協働」のスキルの大切さを感じている。

 

本書では、この「協働」というキーワードを中心に、仕事のこと、お金のこと、教育のこと、コミュニティのことなどについて、社会学的な見地から希望が語られている。これからの未来をよりよく生きる上でのヒントがたくさん詰まっていて、とても勉強になる一冊です。