『ハリー・ポッターと賢者の石』と魔法使いになりたかった少年のころの話
学生時代、アルバイトの一つとして、学習塾で中学生に勉強を教えていたことがある。大半の中学生が「将来の夢は何?」と聞かれると、職種を答えることに違和感があった。
別にその答えが悪いとは言わないけれど、将来どのような生活を送りたいかをもっと語れる子がいてもいいのになと思う。「将来は定時に帰れる仕事に就いて、プライベートな時間を使って、できるだけたくさんの女の子とデートしたいです」といった返しがあれば、ああ、こいつは将来についてよく考えているなと思ったことだろう。
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僕の小学生の頃の夢の一つは、魔法使いになり、たくさんの魔法を私利私欲のために使うことであった。
あの頃の僕は、『ハリー・ポッターと賢者の石』を読み、想像をかき立てるその緻密な世界観とストーリーのとりこになり、魔法使いの存在に魅了されていた。眠ると、小学校のグラウンドの上をほうきに乗って飛び回る夢さえ見た。(超低空飛行だったけど)
まじでホグワーツ魔法学校に入学してえ。
その思いが募りに募った小学生の僕は、ホグワーツの入学許可証を自分宛てに書くことに決めた。
- 作者: J.K.ローリング,J.K.Rowling,松岡佑子
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親愛なるポッター殿
このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申します。教科書並びに必要な教材リストを同封いたします。新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でふくろう便にてお返事をお待ちしております。
敬具
副校長 ミネルバ・マクゴナガル
『ハリー・ポッターと賢者の石』に書いてあることを参考にし、夜中に、自分にむけたホグワーツ魔法学校からの手紙を時間をかけて丁寧にしたため、ついでに教科書並びに教材リストも作成した。(英語は書けないので全部日本語です)
……できた!!入学許可証の完成に満足し、なんて自分は賢いんだろうかと思った。(バカです)
翌朝、僕は入学許可証と教科書並びに教材リストの便せんが入った封筒(表には自宅の住所と僕の名前、裏には「ホグワーツ魔法魔術学校より」と書いてある)を持って、玄関のポストに新聞を取りに行った。
毎朝、新聞をポストに取りに行って、朝食をとっている父親に渡すのが家での僕の役割であった。僕は玄関で、ホグワーツからの手紙の入った封筒を新聞にそっと挟み込み、それを朝食の場に持っていき、いつものように父親に渡した。
そして、いつものように父親は新聞を受け取り、それを開いた。同時に、封筒がテーブルの上にポトリと落ちた。
僕はもう笑いがこらえきれない。
落ちた封筒を拾い、中身を見た父親は言った。
「……なんだこれ!」
その後、僕は「わーい、ホグワーツに入学できる!」とか言った気がする。
☆
仕事から帰宅し、息子の寝顔を見て、この子はどんな大人になるんだろうかと思った。
まあ、ただのマグルで構わないけれども、未来に希望を持って、たくましく生きてもらいたいな。
いい夢みろよ。