『しろくまちゃんのほっとけーき』と『パパは脳科学者』と時間の概念を獲得した息子の話
息子ハルタが最初の絵本を手に入れたのは、今年の夏のことであった。
効果音を気持ちを込めて読んでやると、ハルタは声をあげて笑う。
ぽたあん
どろどろ
ぴちぴちぴち
ぷつぷつ
やけたかな
まあだまだ
しゅっ
ぺたん
ふくふく
くんくん
ぽいっ
はい できあがり
言葉なんかおぼえるんじゃなかった言葉のない世界
意味が意味にならない世界に生きていたら
どんなによかったか
(「帰途」田村隆一)
☆
最近、本屋に行くと、児童書のコーナーとともに教育書のコーナーにも足を運ぶ。
「かしこい子供の育て方」みたいな題名の本が並ぶ。どうやったら、かしこい子供に育てられるんだろうか、知りたい。何冊か手に取り、買おうか悩む。
でも、僕は買えない。肝が小さい僕は、「かしこい子供の育て方」みたいな安易な題名の本を読んでいるということを人に知られたくないのだ。このような題名の本を買った僕を、本屋のレジのお姉さんはどう思うだろうか、妻はどう思うだろうか、成長して色々と理解ができるようになった息子はどう思うだろうか。そう思うと、購入する勇気がでなかった。
別に他人がこのような本を購入して読んでいても、僕はその人に対して何かを思うわけではない。それを読んでいる人が親であれば、気持ちは大いに分かるし。でも、「かしこい子供の育て方」みたいな題名の本を自分自身が買うという行為について、僕の中にあるあまりにくだらないプライドがそれを許さなかった。だから、このような本は立ち読みしてる(こら)
しかし、先日、教育書コーナーで平積みにされている『パパは脳科学者』が目に入り、このタイトルは買える!と思った。目次と最初の数ページを読み、気に入り、カゴに入れた。
この本では、脳科学者・池谷裕二さんが、娘さんの4歳までの成長を、脳の機能の原理から分析して、成長の一か月ごとに章立てして記録している。現在、自分の息子ハルタは生まれて6か月である。この本の6か月の章にはこんなことが書かれている。
出張から帰ると、2つの大きな変化が、娘に起こっていることに気づきました。
1つは……私や妻が部屋を出て、姿を見せなくなると、泣くようになったことです。これは娘が「時間」という概念を獲得しつつある証拠です。なぜなら、「先ほどまでいた親が今はいない」という時間比較ができているからです。初めからいなければ、こうして敏感に反応して泣くことはありません。
同じ変化がハルタにも起こっている!先日の朝、仕事に行く前、珍しくハルタが目覚めていた。僕は寝転がっているハルタに「パパ、仕事に行ってくるね」と言った。ハルタは笑っていた。「今日も仕事はほどほどにして、早く帰るべ」と思い、僕は玄関に向かった。すると突然、ハルタの泣き声が後ろから聞こえてきた。
ハルタが泣いている。ハルタの隣には妻がいるはずだ。こんなことは初めてだ。僕の姿が見えなくなったから、ハルタは泣いたのだ。僕は途端にハルタが愛おしくなり、玄関からハルタのもとへ駆け戻った。
「パパも寂しいよ。今日は仕事行くのやめちゃおっかな」と僕。「行けよ」と妻。
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『パパは脳科学者』の中では、娘とよく読む絵本が紹介されている。今までほとんど知らない世界だったけど、絵本の世界もなかなかディープそうだぞ。いらなくなった絵本、誰かください。